【徹底解説】『秒速5センチメートル』は本当に「鬱映画」なのか?貴樹の人生を辿る、希望の物語!

【徹底解説】『秒速5センチメートル』は本当に「鬱映画」なのか?貴樹の人生を辿る、希望の物語! 漫画アニメ考察

主人公・遠野貴樹の視点に徹底的に絞って読み解き、この物語がなぜ「ハッピーエンド」であると私が考えるのか、その理由を皆さんと分かち合いたいと思います。

『秒速5センチメートル』は、見る人によって解釈が十人十色に分かれる奥深い作品です。私たちは、貴樹と明里、そして花苗の人生を同時に見ているからこそ、様々な感情を抱きます。しかし、貴樹の人生にスポットライトを当てることで、この物語が単なる悲恋物語ではない、新たな発見があるはずです。

見どころ

  • 見どころ1:貴樹の心境の変化の丁寧な描写:★★★★★
  • 見どころ2:過去の思い出が未来へ繋がる希望:★★★★★
  • 見どころ3:誰もが経験する「成長」の葛藤:★★★★★

第1話「桜花抄」:貴樹にかけられた「呪い」とは?

第1話「桜花抄」は、貴樹と篠原明里の物語の原点であり、すべての始まりです。小学生の貴樹と明里は、転校生という共通点からすぐに仲良くなります。この頃の貴樹は、体が弱い明里を「俺が守らなきゃ」という思いを抱いていました。

物語の重要な伏線として、二人の会話に登場するキーワードがあります。

  • 秒速5センチメートル:桜の花びらが舞い落ちる速さ。
  • まるで雪みたいじゃない:明里が口にした言葉。

これらの言葉は、貴樹のその後の人生に深く関わってきます。

中学進学を機に明里が転校。別れを惜しむ貴樹は、彼女に会いに行くことを決意します。そのために書いた手紙には「いつか偶然明里に会ったとしても、恥ずかしくない人間になりたいと思う。好きでした、さようなら」と、決別の思いが綴られていました。しかし、この手紙は風に飛ばされ、雪の中に消えてしまいます。

電車が遅れるというアクシデントに見舞われながらも、ようやく明里に会えた貴樹。そこで明里が言った「まるで雪みたいじゃない」という一言が、貴樹の心に固く閉ざしていた過去の思いを鮮明に蘇らせてしまいます。

そして、二人の間で交わされるキス。貴樹は「その瞬間、永遠とか心とか魂とかいうものがどこにあるのか分かったような気がした」と語ります。このキスによって、貴樹は明里と結ばれることのない未来への不安をすべて忘れ、明里への思いを永遠のものとして心に刻んでしまうのです。

私は、この明里への思いを「呪い」と定義します。この呪いを解くには、夢を叶えるか、諦めるかのどちらかしかありません。しかし、明里が手紙を渡さなかったことで、貴樹は別れを決意できず、「手紙書くよ、電話もする」と、呪いの証拠を自ら作ってしまいます。

第2話「コスモナウト」:呪いの再発と新たな希望

高校生になった貴樹は、鹿児島県の種子島へ引っ越します。チームスポーツのサッカー部から一人で行う弓道部へと転向したことからも、彼の孤独感が増したことが伺えます。

この頃の貴樹は、明里へ届くことのない「宛先のないメール」を打つようになります。これは、彼の心が現実から離れ、明里との「妄想の世界」に身を置いている状態を表しています。

そんな貴樹を陰ながら見つめる少女、澄田花苗。彼女は貴樹にとって唯一、心を許せる存在でした。もし、この時貴樹が花苗の気持ちに応えていたら、呪いが解けていたのかもしれません。しかし、彼はまだ明里への思いを断ち切ることができませんでした。

物語の終盤、貴樹と花苗はロケットを運ぶトラックに遭遇します。ここで花苗が「時速5キロなんだって」と言った一言が、貴樹に再び明里との思い出を鮮明に蘇らせてしまいます。女の子が何かを言い、貴樹が過去を思い出すという構図は、第1話の「桜花抄」と同じです。

この時、貴樹はロケットに自分を重ねていました。何が見つかるか分からない暗闇の中をただひたすら進んでいくロケットは、明里への思いを抱えたまま、人生を進んでいく自分と重なったのです。

この夜、二人はロケットの打ち上げを見送ります。貴樹は明里への思いを再認識し、花苗は貴樹への思いを諦める決意を固めます。

コスモナウトは、貴樹が呪いを解くチャンスでもありましたが、皮肉にも花苗の言葉によって呪いが再発してしまうという、彼の人生における重要な転換点でした。

第3話「秒速5センチメートル」:結果発表と呪いからの解放

大人になった貴樹は、IT企業に就職します。仕事に打ち込みながらも、彼は心の中の「呪い」に苦しんでいました。

「ただ生活をするだけで、悲しみはそこここに積もる。日に干したシーツにも、洗面所の歯ブラシにも、携帯電話の履歴にも」。

このモノローグは、貴樹の心がすり減っていく様子を痛いほどにリアルに表現しています。彼はこの数年間、「届かないものに手を触れたくて」必死に生きてきましたが、その強迫的な思いがどこから来るのか、自分でも分からなくなっていたのです。

そして、元彼女の水野理沙から別れを告げるメールが届き、貴樹は仕事を辞めます。この時、小説版では貴樹が涙を流したと描かれています。貴樹は人生のどん底にいるように見えますが、実はこの頃、彼はフリーランスで仕事を受注しており、すでに新たな人生を歩み始めていました。

最後に、貴樹は思い出の踏切に向かって歩いていきます。そこで、明里らしき女性とすれ違います。通過する電車によって二人の姿は遮られ、電車が通り過ぎた後、そこに明里の姿はありませんでした。

私は、この明里らしき女性は、貴樹の心の中に残っていた明里への「最後の呪い」だったのではないかと考えます。そして、彼女がその場からいなくなったことで、貴樹はついに呪いから解放されたのです。

貴樹は一瞬、残念そうな顔をしますが、すぐに笑顔になり、前を向いて歩き出します。これこそが、貴樹の人生の「結果発表」であり、この物語がハッピーエンドであると考える最大の理由です。

『秒速5センチメートル』は、何の変哲もない一人の人生を描いた物語です。しかし、その人生には、誰もが経験するであろう苦悩や葛藤、そして希望が詰まっています。この作品が多くの人々の心を揺さぶり、長く愛され続けているのは、そのリアルな描写と、最後に見える確かな希望があるからではないでしょうか。

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