【なぜ悲しい?】『秒速5センチメートル』に隠されたメッセージを徹底解説!

【なぜ悲しい?】『秒速5センチメートル』に隠されたメッセージを徹底解説! 漫画アニメ考察

私たちがこの作品に心を揺さぶられるのは、大人になった貴樹が不器用だから、叶わなかった恋が切ないから、それだけの理由ではありません。心に届く描写が、随所に隠されているからなのです。

今回は、この作品が本当に伝えたかったメッセージは何なのか、そして何が我々の心を捉えたのかを考察しました。この記事を読み終えたとき、きっとあなたの『秒速5センチメートル』に対する印象は、より深く、愛おしいものに変わるはずです。

見どころ

  • 見どころ1:背景に隠されたメッセージ:★★★★★
  • 見どころ2:小学生の明里と貴樹の心の機微:★★★★★
  • 見どころ3:貴樹の葛藤と成長:★★★★☆

冒頭1分のシーンに秘められた「別れの予感」

映画『秒速5センチメートル』は、第1話「桜花抄」のタイトルが流れるまでのわずか1分間のやり取りに、物語のすべてを凝縮させています。満開の桜の下、貴樹と明里が交わす会話は、美しさと切なさが入り混じっています。

「ねえ、秒速5センチメートルなんだって。桜の花の落ちるスピード」「ふうん」「ねえ、なんだかまるで雪みたいじゃない?」「そうかな」「ねえ、待ってよ」

このやり取りには、二人の性格や、これから訪れる運命がすでに示唆されています。

桜、雪、傘が語る本当の気持ち

満開の桜は、通常は始まりや幸せのピークを象徴するものです。

しかし、転勤が多い家庭で育ち、別れに敏感だった二人は、その幸せが永遠ではないことを知っていました。だからこそ、幸せの象徴である桜ではなく、「秒速5センチメートルで落ちていく桜の花びら」に目を向けているのです。

明里が花びらを「まるで雪みたい」と表現したのに対し、貴樹は「そうかな」と答えます。このすれ違いは、明里がすでに別れの気配を強く感じ取っていることを示しています。監督は作中に登場する物や背景に特定の意味を持たせることで、登場人物の心情を表現しています。

  • 桜:春、命が芽吹く季節。
  • 雪:冬、草が枯れて眠りにつく季節。別れや悲しみを示す重要なモチーフ。

明里は春の象徴である桜に、冬の象徴である雪を重ねています。映画の描写をよく見ると、水たまりに落ちる花びらは描かれているのに、その周りの木には花や葉が一切ありません。これは、花のない冬の桜の木が描かれているのです。この繊細な描写から、明里がどれだけ別れに敏感だったかが分かります。

さらに、明里は花びらに対して傘をさしています。これは、これから訪れるであろう悲しみや別れに備えているようにも見えます。そして、「来年も一緒に桜見れるといいね」というセリフ。映

像の明里は笑顔ですが、言葉のニュアンスは語尾が下がっており、どこか自信がないように聞こえます。明里は「多分もう一緒に見れないだろうけど、でも見れたらいいな」という複雑な思いを抱えていたのです。

豆知識:冒頭のシーンには、美しい春の景色の中に、黒と黄色の安全標識や、工事車両の赤と白の縞模様が描かれています。これは、さりげなく将来への警告や変化の予感を示しているのです。新海監督は背景の細部にまで意味を込めているのですね。

中学生になった貴樹の「生きにくさ」

明里が栃木に転校した後、中学生になった貴樹は、一見うまくやっているように見えます。しかし、彼が授業中に明里からの手紙を読んでいる場面での複雑な表情は、映画だけでは読み取れませんでした。

実は、この時の貴樹は手紙をもらったことを素直に喜べなかったのです。

アパートの集合ポストの中に薄いピンク色の手紙を見つけ、それが明里からの手紙だと知った時、嬉しさよりもまず戸惑いを感じたのを覚えている。どうして今になって、と僕は思った。この半年間、必死に明里のいない世界に体を馴染ませてきたのに、手紙なんてもらったら、明里のいない寂しさを僕は思い出してしまう

これは、小説版に書かれている貴樹の心の声です。

彼は明里のいない世界で生きるための努力を重ねていました。そして、明里への書きかけの手紙には「僕は今の中学がそれほど気に入っていない」「もし明里が同じ学校」という、自立を始めた明里に弱さを見せてもいいのか迷う、彼の葛藤が垣間見えます。

鳥、踏切、そして時間の流れ

卒業を前に、貴樹は明里に会うため、栃木へと向かう電車に乗ります。この場面で、再び「鳥」が重要なモチーフとして登場します。

  • 映画では、夜景を飛ぶ鳥が明里の元へ向かう様子が描かれます。
  • 小説版では、貴樹が夢の中で鳥になって明里の元へ飛んでいく様子が書かれています。

この場面では鳥は貴樹自身を指していますが、この作品全体では「人」を象徴するモチーフとして何度も登場します。

雪が降りしきる中、電車は遅れ、貴樹は苛立ちと不安を募らせていきます。電車が踏切を通り過ぎた時、ドップラー効果で音の高さが変わり、ランプによって車内が赤く染まります。これは、明里に会えるという「期待」が、不安へと塗り替えられていく貴樹の心の変化を表現しているのです。

明里への手紙が風に飛ばされ、温かい飲み物を買うことすら許されないかのような描写。すべてが青色のコールドになっている自販機。背景ですら貴樹を嘲笑っているかのようです。停車を繰り返す電車の中で、彼は時間から逃れるように腕時計を外します。そして「どうか、もう家に帰っていてくれればいいのに」と、明里の無事を願うのです。

再会、そして小学生の頃の「後悔」

ついに岩舟駅に到着した貴樹と明里は、駅の待合室で再会を果たします。明里が作ってきたお弁当の具材がすべて2つずつ入っていることや、貴樹が駅でそばを食べるのを我慢していたことから、離れていてもお互いの気持ちが同じであったことが分かります。

二人は小学生の頃の思い出を語ります。特に、カンブリア紀の奇妙な生き物の話をしていた場面は、ただの懐かしい会話ではありません。

小説版によると、二人が必死に知識を交換し合っていたのは、「いつか大切な相手がいなくなってしまった時のために、相手の断片を必死で交換し合っていたのかもしれない」という深い意味が込められていました。

そして、貴樹は電話ボックスで明里に転校を告げられた時のことを後悔します。明里が「ごめんね」と謝ったのに対し、彼は「分かった、もういいよ」と感情的に答えてしまったのです。

これを責める声も聞かれますが、私には仕方がないことだったように思えます。なぜなら、二人は中学受験という、小学生ができる最大限の努力をしていました。しかし、親の転勤という人生の理不尽な流れによって、その努力はかき消されてしまったのです。当時、小学6年生だった貴樹の悔しさは、想像を絶するものだったでしょう。

二人は岩舟駅を出て、雪が降る桜の木の下でキスをします。そして、一晩を共に過ごした翌朝の電車で再び別れます。この時、明里は準備していた手紙を貴樹に渡しませんでした。ただ、「貴樹くんは、この先も大丈夫だと思う、絶対」と、どうしても伝えたかった言葉だけを告げたのです。

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