40年ぶりの労基法大改正で働き方はどう変わるのか?フリーランスから会社員までが知るべき20のポイント

40年ぶりの労基法大改正で働き方はどう変わるのか?フリーランスから会社員までが知るべき20のポイント 解説

労働基準法の改正議論は、働き手にとっては「ブラックな働き方に歯止めがかかるチャンス」であり、同時に企業側にとっては「業務設計を根本から見直さないと立ち行かなくなるリスク」でもあります。

見どころ(各5段階評価)

  • 勤務間インターバルと残業上限の見直しで「長時間労働」に本気でメスが入る可能性:★★★★★
  • フリーランス・家事使用人・一次産業まで含めた「労働者保護の範囲拡大」のインパクト:★★★★☆
  • 副業・兼業、つながらない権利など「柔軟な働き方」と「休む権利」のバランスの難しさ:★★★☆☆

40年ぶりの労基法改正とは何か

今回の改正はまだ「検討段階」である

今回取り上げられているのは、厚生労働省の労働政策審議会やその分科会で議論されている「労働基準関係法制」の見直し案です。現時点では、法案として国会に提出され、成立したわけではありません。つまり、方向性はかなりはっきりしてきたものの、具体的な条文や施行時期は「わからない」状態です。

報告書レベルでは、勤務間インターバルの原則11時間化、14日を超える連続勤務の禁止、週44時間特例の廃止、つながらない権利のガイドライン整備などが提示されていますが、これはあくまで「提言・検討事項」であり、最終決定ではありません。

したがって、本記事で扱う内容は「現時点の公的資料や報道に基づく方向性の整理」です。

豆知識: 今回「40年ぶりの大改正」と言われるのは、1980年代以降、労働時間や休日に関する枠組みが大きくは変わってこなかった一方で、テレワーク・副業・フリーランスなど働き方だけが急速に変化したことが背景にあります。

フリーランスも対象に?「労働者」の範囲が広がる可能性

偽装フリーランスに労基法を適用する方向性

動画内でまず強調されているのが、「労働者の範囲拡大」です。形式上は業務委託契約でも、実態としては会社の指揮命令を受け、決まった場所と時間で働く人たちについて、「それは実質的に労働者なので、労基法の保護対象にすべきではないか」という議論が進んでいます。

例えば、常に同じオフィスで働き、上司もいて、勤務時間も会社が決めているフリーランス、配達プラットフォームのドライバーなどが典型例です。報酬が時給ベース、指揮監督が強いといった要素が揃うと「使用従属性が高い」と判断され、労働者性ありとみなされやすくなります。

推測ですが、この線引きが明確になれば、「業務委託のはずなのに社内の正社員と同じように拘束される」というグレーな働き方はかなり減少する可能性があります。

家事使用人(家政婦等)にも保護を広げる議論

現在の労基法では、家事使用人は適用除外とされています。時代遅れとの指摘が強く、労働時間や休日の保護を家政婦などにも広げる方向で見直しが検討されています。

家の中で働く人ほど、第三者の目が届きにくく、長時間労働や低賃金が固定化しやすいという現実があるため、保護の拡大には一定の合理性があります。

豆知識: 国際的には、家事労働者も労働法の保護対象に含める流れが主流で、ILO条約でも家事労働者の権利確保がテーマになっています。

残業時間・休日・勤務間インターバルの見直し

残業の上限「特例」を縮小する方向

現行では、原則として残業は月45時間・年360時間までですが、「臨時的な特別の事情」があれば年720時間・単月100時間未満まで拡張できる特例があります。今回の議論では、この特例を縮小または廃止し、より厳格に上限を管理すべきだという方向性が打ち出されています。

推測ですが、いきなり全企業で一律45時間上限になる可能性は低く、業種や規模を踏まえた経過措置が設けられる公算が高いです。ただし、「月80時間を常態化させる」ような働かせ方は、今以上にリスクが高まると考えるべきです。

連続勤務は最大13日まで?4週4休から2週2休へ

現行法では4週4休の枠組みにより、理屈上は48日連続勤務も可能という、かなりハードな状態が放置されてきました。提言では、13日を超える連続勤務を禁止し、少なくとも2週間で2日は休ませる「2週2休」相当への移行が示されています。

「うちの繁忙期は3週間休みゼロが当たり前」という会社は、根本的なシフト設計の見直しが避けられません。

勤務間インターバル11時間案

勤務間インターバルとは、終業から翌日の始業までの休息時間を一定時間以上空ける仕組みです。現在は努力義務ですが、原則11時間を義務化する方向で議論されています。

動画内の例で言えば、「24時に仕事が終わったら、翌日は11時まで働いてはいけない」というルールです。欧州では11時間以上のインターバルが一般的で、それに合わせる形です。

豆知識: 勤務間インターバル制度は、単に「残業するな」という発想ではなく、「睡眠時間と生活時間を最低限守れ」という健康確保が主目的です。過労死認定基準でも、長時間労働とともに「休息不足」が重視され始めています。

休憩ルールと週40時間の原則も整理される

動画では、6時間超で45分、8時間超で60分の休憩を一斉に与えるという現行ルールを、フレックスタイム制や裁量労働制にどう当てはめるかという見直し論点にも触れています。実働時間を厳密に測りにくい働き方で、一律の休憩義務と罰則をどう設計するかは、今も議論途上であり、具体案は「わからない」部分が多い状態です。

また、常時10人未満の事業場に認められている週44時間特例をやめ、すべての事業場で週40時間に統一する方向性も示されています。

「管理職」「休日の連絡」「有給」のルールが変わる

管理監督者(管理職)の定義を明確にする

今の「管理監督者」制度は、名ばかり管理職問題を大量に生みました。肩書だけ店長や課長にして残業代を払わない一方、実際には権限も裁量もないというケースが多く、裁判でも企業側が敗訴する例が目立ちます。

そこで、管理監督者の要件を明確化し、たとえ管理監督者であっても、健康確保措置(長時間労働時の医師面談、一定の休日確保など)は義務化する方向で議論が進んでいます。

休日の特定と「つながらない権利」

現在、法定休日は4週4休さえ守ればよく、「毎週何曜日が法定休日か」を法律上あらかじめ決める義務はありません。これを「事前に法定休日を特定する」方向に改める提案が出ています。

あわせて、勤務時間外や休日に仕事のメールや電話への対応を拒否できる「つながらない権利」について、ガイドラインをつくることが検討されています。これは、いきなり罰則付きの義務ではなく、まずは企業内ルール整備を促すソフトな規制から始まる見込みです。

毎晩23時にスマホが鳴り、「すみません今だけこれだけ至急で…」というパターンが常態化している会社は、この点で確実に見直しを迫られます。

有給休暇のルールも細かく手直しへ

有給休暇については、会社による5日分の時季指定義務、時間単位有給の扱い、付与要件である「全労働日の8割出勤」など、細かい論点が整理されています。8割出勤要件の廃止や、賃金算定方式を「通常賃金方式」に統一する方向性も提言されていますが、どこまで法案に落ちるかは現時点では「わからない」です。

副業・裁量労働制・一次産業への適用拡大

副業・兼業の「労働時間通算」をどうするか

現行制度では、複数の会社で働く場合、労働時間は通算して管理する建前になっています。ところが、現実には会社同士が情報共有しないことも多く、「通算すると面倒だから副業禁止」という歪んだ状態が生まれています。

そこで、「副業については原則として労働時間を通算しない」「割増賃金も通算しない」といった大胆な簡素化案が検討されています。ただし、これは「長時間労働の是正」に逆行するとの批判も強く、労働側は強く反対しています。

推測ですが、完全な通算廃止ではなく、「一定の条件下で通算しない」「自己申告を前提にした緩やかな管理」など、折衷案に落ち着く可能性が高いと考えられます。

裁量労働制の対象拡大と歯止め

裁量労働制は、本来「働く時間ではなく成果で評価する」ための制度ですが、日本では長時間労働の温床になってきた側面もあります。今回の議論では、専門業務型や企画型の枠組みを見直し、対象業務の拡大とあわせて健康確保措置の強化が検討されています。

ここは労使の対立が特に激しい領域であり、最終案がどうなるかは「わからない」部分が多く、専門家に確認が必要な論点です。

農業・畜産・水産業などへの労働時間規制の適用

現在、農業・畜産・水産業など一部の一次産業は、労働時間規制の適用除外となっています。今回の見直しでは、少なくとも健康福祉確保措置など、一定の規制を導入する方向が示されています。

繁忙期と閑散期の差が極端な業種であるため、一律の規制は難しいものの、「無制限に働かせてよい」という現行の状態は是正される方向に向かっています。

企業と働き手は何を準備すべきか

企業側が今からやるべき3つの準備

  • 自社の残業時間実績と勤務間インターバルを客観的に把握し、「13日連続勤務」「インターバル11時間」に照らしてどれだけ乖離しているかを数値で確認すること。
  • テレワーク・フレックス・裁量労働・副業など、現在の制度と実態を棚卸しし、「名ばかり管理職」「偽装フリーランス」に該当するリスクがないか整理すること。
  • 休日の連絡ルール、有給取得ルールなどについて、就業規則と運用のギャップを洗い出し、「つながらない権利」に対応できる社内ルール案を検討すること。

いずれの項目も、制度が完全に固まるのを待ってから動き出すと手遅れになります。特に残業時間が多い会社や、テレワークと長時間労働がセットになっている会社は、今のうちに「シフト設計」「人数配置」「業務量の見直し」に手をつけておかないと、改正後に一気に追い込まれるリスクがあります。

個人の働き手が押さえるべきポイント

  • 自分の働き方が「本当に労基法の想定する労働時間・休息・休日の枠内にあるのか」を、冷静に数字で把握すること。
  • フリーランスや業務委託の場合でも、「実態として正社員と同じ働き方を強いられていないか」をチェックし、問題があれば相談窓口や専門家を検討すること。
  • 副業をしている人は、「通算ルールが変わったとき、自分の健康と生活にどんな影響が出るか」をあらかじめイメージしておくこと。

「うちの会社には関係ない」「どうせ骨抜きになる」と決めつけるのではなく、自分の働き方がどの論点にひっかかりそうか、一度洗い出しておくと、改正のニュースが出たときに慌てずに済みます。

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