LLM(大規模言語モデル)は、「何となく便利そう」ではなく、仕事の進め方や学び方そのものを変えてしまうレベルの技術です。ただ、魔法の杖ではないので、仕組みと弱点を知ったうえで使いこなすことが重要になります。
見どころ
- 仕組みの理解しやすさ:★★★★★
- ビジネスへの応用イメージ:★★★★☆
- リスクと対策の整理度:★★★★☆
LLMとは?生成AIの「頭脳」にあたる技術
LLMは「Large Language Models」の略で、日本語では大規模言語モデルと呼ばれます。簡単に言うと、膨大な文章データを学習し、人間のように自然な文章を生成できるAIの仕組みです。
ChatGPTのような生成AIは、表側から見ると「質問すると答えてくれる便利なチャットツール」ですが、その裏側で動いている中身こそがLLMです。LLMがあるからこそ、メール文の下書き作成、議事録の要約、プログラムコードの補完など、さまざまなタスクを自動化できます。
つまり、LLMは「アプリ」ではなく、そのアプリに頭脳を提供する基盤技術だと考えるとイメージしやすいです。
言語モデルの仕組み:次に来る言葉を確率で選んでいる
LLMの根本にあるのが「言語モデル」という考え方です。言語モデルは、簡単に言うと次に来る言葉を確率で選ぶ仕組みです。
例えば「時は」という言葉が入力されたとします。その次に来そうな候補としては「金」「命」「流れる」などが考えられます。言語モデルは、学習してきた膨大な文章の中から、「この文脈なら『金』が来る確率が高い」と判断し、確率の高い順に単語を選んでいきます。
同じように、「時は金」と続いたら、その次に来る候補として「なり」「である」などの言葉の確率が計算され、最終的に「時は金なり。」という自然な文章が完成します。
ここで重要なのは、LLMは「意味を完璧に理解している」というよりも、「膨大なデータから、もっとも自然な“次の言葉”を選ぶ確率マシン」として動いているという点です。にもかかわらず、実際にはかなり賢く見えるのが面白いところです。
豆知識:人間が文章を書くときも、実は頭の中で「次にどの言葉を置くと自然か?」を無意識に選んでいます。言語モデルは、この人間の感覚を確率として数式に落とし込んだものと考えるとイメージしやすいです。
なぜ「大規模」なのか?LLMが桁違いな3つの理由
LLMに「大規模」と付くのは、単に大げさな名前だからではありません。データ量・計算量・パラメーター数の3つが、従来のAIとは桁違いだからです。
1. 学習データ量が桁違い
LLMが学習する情報量は、もはや人間の読書量では比較になりません。ここで重要になるのがトークン(token)という単位です。トークンは、文章を構成する単語や記号などを細かく分割した最小単位のことです。
英語の本1冊あたりのトークン数をざっくり5万とすると、GPT-3は約5000億トークンで学習しています。これは本に換算すると約1000万冊分に相当します。
日本最大級の図書館である国立国会図書館の所蔵点数(書籍・雑誌・新聞・電子資料などを含む)が約4400万点とされていることを考えると、LLMはそれを大きく上回る規模の文章データを読み込んでいると考えられます。
豆知識:「国会図書館レベルを何周も読んだ」ようなモデルに対して、人間1人が「自分の経験だけで対抗しよう」とするのは、そもそも土俵が違うと言えます。だからこそ、人間側は“覚える”より“どう使うか”に頭を使った方が合理的です。
2. 計算に使うマシンパワーが巨大
膨大なデータを学習させるためには、とてつもない計算能力が必要です。そこで使われるのが、GPUやTPUといった高性能半導体です。これらは1台あたり数十万円から場合によってはそれ以上という、高価な計算マシンです。
大規模なLLMの学習には、これらのGPUが数百台から数万台単位で使われることもあります。当然、電気代も相当なものになります。AIに残業代は出ませんが、電気代とハードウェアコストは確実に積み上がっていきます。
3. パラメーター数が桁違い
LLMの性能を語る上で欠かせないのがパラメーターの数です。パラメーターとは、簡単に言えば「言葉と言葉の関係性や文脈を調整するための設定項目」です。
エアコンのリモコンをイメージすると分かりやすいかもしれません。温度、風量、風向きなど、設定できる項目が多いほど、細かい調整が可能になります。同じように、LLMのパラメーターが多いほど、文脈のニュアンスを繊細に調整できるようになります。
初期のモデルでは1億〜数億程度だったパラメーター数は、世代が進むにつれて数百億、さらには1兆以上とも言われる規模にまで増えています。パラメーターが増えるほどモデルは賢くなり、より自然な文章や回答を生成できるようになります。
なぜ今LLMがこれほど注目されているのか?
LLM自体の研究は、2010年頃からディープラーニングの発展とともに徐々に進んできました。しかし、世界的に大きな話題になったのはGPT-3あたりからです。
それ以前のモデルも文章生成はできましたが、長い文章になると話がずれたり、初めて見る質問への対応が不自然だったりしました。ところが、学習に使うトークン数が数十億から数千億、さらにはそれ以上に増えていくことで、モデルの表現力が一気に向上しました。
重要なのは、データ量・計算量・パラメーター数を増やすほど性能が上がるという傾向が確認されたことです。つまり、「お金とマシンパワーを投入すればするほど賢くなる」ことが見えてしまったため、各社がこぞって巨額の投資を始めたという流れです。
仕事への示唆:この構造を知ると、「AIに負けないように勉強量で対抗する」という戦い方は合理的ではないと分かります。人間が勝負すべきは、“どの問いを立てるか”“どの前提を疑うか”といった思考部分です。
LLMの弱点と限界:魔法の道具ではない
ここまで読むと、「LLMがあれば大体なんでもできるのでは?」と感じるかもしれません。しかし、LLMには明確な弱点もあります。主なポイントを5つに整理します。
1. 最新情報に追いつけない場合がある
LLMは、一度学習が終わると、その時点以降の新しい情報を自動で取り込むわけではありません。そのため、最新の製品情報や直近のニュースなどに対しては、古い情報を答えてしまうリスクがあります。
2. 特定分野や自社情報には弱い
LLMは広く浅く知識を持ちますが、各社の就業規則や社内規程、極端に専門的なニッチ領域など、公開されていない情報や超専門分野については正確な回答が難しくなります。
3. もっとも大きな問題:誤った情報(ハルシネーション)
LLMは、あたかもそれらしい回答を自信満々に返してくることがありますが、内容が事実と異なっていることもあります。この現象はハルシネーション(幻覚)問題と呼ばれます。
例えば、存在しない会社名や論文名をそれらしく作り出してしまう、世界一高い山について誤った名前を回答してしまう、といったケースです。見た目は非常にもっともらしいので、そのまま信じると危険です。
4. 計算コストが高い
LLMを学習・運用するには、大量の計算資源と電力が必要です。開発側からすれば、GPUの購入費やデータセンターの電気代など、かなりの固定費がかかります。ユーザー側から見ても、「高性能モデルをどこまで使うか」は、今後コストとのバランスを考えるテーマになっていきます。
5. 入力データが学習に使われるリスク
外部サービスを利用する場合、入力したデータがモデルの改善に使われる可能性があります。その中に機密情報や個人情報が混ざっていると、意図せず情報を外部に提供してしまうことになりかねません。この点は企業利用において特に注意が必要です。
LLMの課題をどう解決するか:RAG・ファインチューニング・プロンプト設計
では、これらの弱点を踏まえたうえで、どのようにLLMを活用していけばよいのでしょうか。動画内では、主に次のような解決策が紹介されています。
1. RAG(ラグ)で最新情報と専門情報に対応
RAGは、あらかじめ用意した最新の情報や特定分野のデータベースから関連情報を検索し、その結果をもとにLLMが回答を生成する仕組みです。
ポイントは、LLMがすべての知識を事前に覚えておく必要はなく、必要なときに必要な情報を外部から参照する形にすることで、最新情報や自社固有情報にも対応できるようになることです。
2. ファインチューニングで自社専用モデルに寄せる
ファインチューニングとは、すでに学習済みのLLMを、自社のデータや専門分野のデータで「追加調整」する手法です。
これにより、一般的な知識プラス自社ルールや業界特有の表現を理解するモデルに近づけることができます。いきなりゼロから自社モデルを作るのではなく、「既存モデルに自社の色を足す」というイメージです。
3. プロンプトエンジニアリングで信頼性を高める
プロンプトエンジニアリングとは、LLMへの指示文(プロンプト)の工夫によって、回答の品質を高める技術です。
- 回答と一緒に根拠となる情報源を提示させる
- 「分からないときは分からないと答える」ように指示する
- 手順を分けて考えさせるよう依頼する
このような工夫によって、ハルシネーションの影響を減らし、ビジネスで使えるレベルの信頼性に近づけることができます。
4. オープンソースLLMと自社サーバーの活用
機密情報の扱いが気になる場合は、オープンソースのLLMを使って、自社のサーバー内に閉じた環境で運用するという選択肢もあります。この場合、入力データが外部の開発元に送られないため、情報漏えいリスクを抑えやすくなります。
自社サーバー上でRAGと組み合わせれば、社内文書検索+要約+チャットのような仕組みを、比較的高い安全性で構築することも可能です。
現実的な落としどころ:「すべてクラウドの汎用サービスで済ませる」か「すべて自社構築で守るか」の二択ではなく、公開情報は外部サービス、機密情報は自社環境、といった住み分けをするハイブリッド構成が現実的な選択になっていきます。
これからの時代にLLMとどう付き合うべきか
LLMは、もはや一部のエンジニアだけの話ではありません。メール作成、資料のたたき台作成、コード補完、マニュアル作成、FAQ対応など、多くのホワイトカラー業務に直接関わってきます。
とはいえ、「全部AI任せにすれば楽になる」という話でもありません。LLMの仕組み・強み・弱点を理解したうえで、次のようなスタンスが現実的です。
- 事実確認や最終判断は人間が行う
- “下書き”や“たたき台”づくりをLLMに任せる
- 自社のナレッジやマニュアルをRAGで活用する
- プロンプト設計を「新しいリテラシー」として磨く
特に、プロンプト設計やLLMの前提理解は、今後のビジネスパーソンにとって「パワーポイントの使い方」レベルで必須スキルになっていく可能性が高い分野です。
LLMを「仕組みレベル」で理解して武器にする
本記事では、動画の内容をもとに、LLM(大規模言語モデル)について以下のポイントを整理しました。
- LLMは生成AIの頭脳であり、次に来る言葉を確率的に選ぶ言語モデルで動いていること
- 膨大なトークン数、巨大な計算資源、莫大なパラメーター数によって「大規模」になっていること
- 最新情報に弱い、専門領域や自社情報に限界がある、ハルシネーションが起こるなどの弱点があること
- RAG、ファインチューニング、プロンプトエンジニアリング、オープンソースLLMなどで課題を補えること
大切なのは、「よく分からないけどすごいAI」ではなく、「どういう前提と制約で動いている技術なのか」を理解したうえで、自分の仕事や学習に組み込んでいくことです。
LLMは、正しく使えば、個人の生産性を大きく底上げしてくれる強力なパートナーになります。



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