1日が24時間じゃない⁉︎ 地球の自転が加速する謎と物理学の最前線

1日が24時間じゃない⁉︎ 地球の自転が加速する謎と物理学の最前線 時事

私たちが当たり前のように過ごしている「1日」。しかし、その長さが少しずつ短くなっているという事実をご存知でしょうか。これは単なる噂話ではなく、物理学の根幹に関わる、極めて重要な現象なのです。この記事を読めば、あなたがこれまで持っていた「時間」という概念が、地球という壮大な惑星のダイナミックな活動の一部であることが分かり、科学の面白さを再発見できるはずです。

【5段階評価】

  • 見どころ① 物理法則との関係性:★★★★★
  • 見どころ② 地球のダイナミズム:★★★★☆
  • 見どころ③ 未来への影響と謎:★★★★★

え、1日が短くなってる?地球の自転に起きた異変

まず、何が起きているのか、観測された事実から見ていきましょう。にわかには信じがたいかもしれませんが、私たちの地球は、今まさに回転速度を上げています。

観測が示す驚きの事実

国際地球回転・基準系事業(IERS)による精密な観測データは、驚くべき事実を明らかにしました。2020年以降、地球の自転速度に明確な加速傾向が見られるのです。具体的には、1日の標準的な長さである86,400秒よりも、最大で1.59ミリ秒も短くなった日が記録されました。ミリ秒と聞くと些細な変化に思えるかもしれませんが、天文学や物理学の世界では、これはとてつもなく大きな変化です。

地球の質量は約6×1024kg。これほど巨大な天体の回転速度が変わるということは、想像を絶するほどのエネルギーが関わっていることを意味します。例えるなら、時速300kmで走行中の新幹線が、何の前触れもなく時速302kmに加速するようなものです。一体、地球に何が起きているのでしょうか。

驚きの記録更新: 最近の研究では、この加速傾向がさらに顕著になっていることが判明しました。特に2025年7月10日は、現代の時間測定史上、最も短い1日として記録されました。この日の1日は、標準より1.38ミリ秒も短かったのです。私たちの知らないところで、地球は記録を更新し続けているのですね。

物理学の基本法則「角運動量保存則」とは?

この現象を理解する上で欠かせないのが、物理学の基本法則である「角運動量保存則」です。なんだか難しそうに聞こえますが、原理は意外と身近なところにあります。

フィギュアスケートの選手がスピンをする時、腕を広げていると回転はゆっくりですが、腕を体に引き寄せると一気に回転速度が上がりますよね。あれこそが、角運動量保存則の現れです。外部から大きな力が加わらない限り、回転する物体の「角運動量(回転の勢いのようなもの)」は一定に保たれます。角運動量は「慣性モーメント(質量の分布の仕方)」と「角速度(回転の速さ)」の掛け算で決まります。

L(角運動量) = I(慣性モーメント) × ω(角速度)

腕を体に引き寄せると、質量が回転の中心に集まるため「慣性モーメント」が小さくなります。その結果、全体の角運動量を一定に保つために、反対に「角速度」が上がる、つまり回転が速くなるのです。

地球の場合もこれと同じです。地球内部や表面で何らかの質量移動が起こり、地球全体の「慣性モーセント」が変化すると、角運動量保存則に従って自転速度が変化するのです。まさに、地球自身が壮大なスケートを披露しているかのようです。

なぜ地球の回転は速くなるのか?複雑に絡み合う要因たち

では、具体的にどのような要因が地球の「腕の動き」、つまり質量分布を変化させているのでしょうか。その原因は一つではなく、地球の内部から宇宙空間まで、様々な要因が複雑に絡み合っています。

地球の”中身”が鍵を握る!- マントルと核の動き

最も大きな影響を与えていると考えられているのが、地球内部の動きです。

  • マントル対流: 地球の内部では、高温のマントルがゆっくりと対流しています。この流れのパターンが変化すると、地球全体の質量バランスが変わり、自転速度に影響します。
  • 液体外核の流動: 地球の磁場を生み出している液体金属の核(外核)の動きも重要です。この液体の流れが変化することで、地球全体の回転に影響を与えると考えられています。

さらに、地球深部の超高圧下で鉱物の結晶構造が変わる「相転移」による密度の変化も、自転速度の変動に関わっている可能性が指摘されています。私たちの足元のはるか深くで、地球のダイナミックな活動が繰り広げられているのです。

宇宙からの影響 – 月との綱引き

地球の自転には、お隣の天体である月も大きく関わっています。月の引力は、地球の海水や地面を引っ張り、「潮汐力」を生み出します。この潮汐力は、基本的には地球の自転にブレーキをかける働きをしますが、月の軌道によっては、ごくわずかに加速させる効果を持つこともあり、複雑な影響を与えています。

地表で起きている大変動 – 気候変動と地震の影響

私たちの生活に身近な現象も、地球の自転に影響を与えています。

  • 大気の運動: ジェット気流のような大規模な風のパターンの変化や気圧配置の変動は、大気と固体の地球との間で角運動量を交換し、自転速度を変える要因となります。
  • 海洋の変動: エルニーニョ現象やラニーニャ現象のように、広大な海域で水温や海流が変化すると、海水の分布が変わり、地球全体の慣性モーメントに影響を与えます。
  • 地震: 巨大地震による地殻変動も、質量分布を変化させます。実際に、2011年の東日本大震災では、地球の自転が1.8マイクロ秒(100万分の1.8秒)速くなったことが観測されました。

気候変動の影響: 温暖化による極地の氷河の融解や海面上昇も、地球の質量分布を変える大きな要因です。溶けた水が赤道方向に移動すると、フィギュアスケーターが腕を広げるのと同じで、慣性モーメントが大きくなり、本来は自転を「遅く」するはずなのです。しかし、観測事実は「加速」。この矛盾こそが、科学者たちを悩ませる大きな謎となっています。

時間の常識が変わる?私たちの生活への影響

地球の自転速度の変化は、単なる科学的な興味の対象に留まりません。私たちの生活や社会システムにも、無視できない影響を及ぼす可能性があります。

史上初「負のうるう秒」が導入されるかもしれない!

現在の正確な時刻は、原子の振動を利用した「原子時」で定義されています。一方で、私たちの生活時間は地球の自転に基づく「世界時(UT1)」と連動しています。この二つの時間のズレを調整するために、これまで「うるう秒」として1秒を挿入する調整が行われてきました。

しかし、自転が加速している今、このズレの方向が逆転し始めています。このまま加速が続けば、史上初めて1秒を「引く」調整、すなわち「負のうるう秒」の導入が必要になるかもしれないと議論されているのです。これは、人類が未だ経験したことのない時間調整であり、社会に混乱を招く可能性も指摘されています。

GPSからコンピュータまで、忍び寄る影響

わずかな時間のズレは、高度な技術システムに影響を与えます。

  • GPSシステム: 人工衛星からの信号の到達時間から正確な位置を割り出すGPSにとって、時間のズレは測位精度の低下に直結します。
  • コンピュータシステム: 世界中の多くのシステムは、協定世界時(UTC)で同期しています。「負のうるう秒」のような前例のない調整は、システムに予期せぬエラーを引き起こすリスクがあります。
  • 科学研究: 天文学や測地学など、精密な時間測定を必要とする分野では、観測データの精度に直接影響が出てきます。

科学者も頭を悩ます「矛盾」と最前線の研究

この現象は、多くの謎に包まれています。特に大きな矛盾は、前述の通り、気候変動の影響です。

遅くなるはずが、なぜか速くなるミステリー

NASAの研究によると、氷河の融解など気候変動の影響だけを考えれば、1日の長さはむしろ0.6~0.7ミリ秒ほど「長く」なるはずだと計算されています。しかし、現実に観測されているのは「加速」です。つまり、自転を遅くする力を上回る、何か強力な「加速」の要因が働いているとしか考えられません。

鍵は地球の中心「内核」の動き?

この矛盾を解く鍵として、現在注目されているのが「内核」の存在です。地震波の解析から、地球の中心にある固体の「内核」の回転が、ここ数十年で減速し始めている可能性が示唆されています。角運動量保存則によれば、内側の核の回転が遅くなると、その外側にあるマントルや地殻、つまり私たちが住む固体地球が、その分だけ回転を速めてバランスを取ろうとします。この内核の減速が、気候変動による減速効果を打ち消し、さらには全体を加速させているのではないか、というわけです。

しかし、なぜ内核が減速しているのか、そのメカニズムは完全には解明されておらず、まさに地球科学の最前線のテーマとなっています。

まとめ

今回お話しした地球の自転速度の変化は、決して遠い世界の出来事ではありません。それは、物理学の基本法則が私たちの惑星で実際に働いている証拠であり、地球が内部から気候まで全てが連動した、生きている動的なシステムであることを示しています。

重要なポイントをまとめると、以下のようになります。

  • 地球の自転速度は、実際に観測可能なレベルで加速している。
  • その原因は、角運動量保存則に基づき、地球内部の核の動きや気候変動など、複数の要因が複雑に絡み合っている。
  • この変化は「負のうるう秒」の導入など、私たちの時間の定義や社会システムに影響を与える可能性がある。
  • 気候変動による減速効果と、観測されている加速との間には矛盾があり、その謎を解く鍵は「内核の減速」にあるかもしれない。

この現象を精密に観測できるようになったこと自体が、原子時計や電波干渉計といった人類の科学技術の進歩の証でもあります。私たちは今、地球という巨大な時計の針の微細な動きを捉え、その仕組みを解き明かそうとしています。この身近な現象が、宇宙の深い謎につながっていることを思うと、ワクワクしませんか。

地球の小さな変化から宇宙の法則を読み解く科学の旅は、これからも続いていきます。

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