株高不況とは何か?「景気は悪いのに株だけ上がる」時代の真相

株高不況とは何か?「景気は悪いのに株だけ上がる」時代の真相 株式投資

「株価が高いのに、生活はちっとも楽にならない」。最近、こう感じる人が増えています。日経平均株価は史上最高水準を更新する一方で、物価上昇や家計の苦しさは続き、消費マインドは冷え込んでいます。

このねじれを、第一生命経済研究所の藤代宏一氏は「株高不況」と名付けました。

5段階評価と見どころ

本記事の内容は、経済ニュースを「実感ベース」で理解したい方に特におすすめです。難しい専門用語を避け、企業や家計のリアルな関係を丁寧に紐解いています。

  • 理解しやすさ:★★★★★
  • 時事性・トレンド感:★★★★☆
  • 実生活への応用度:★★★★☆

見どころ: 株高の裏にある「インフレと格差」のメカニズムを、名目GDPと実質GDPの違いから解き明かします。

株価が上がっても生活が苦しい理由

名目GDPと実質GDPのズレ

藤代氏によると、経済の状態を測るには「名目GDP」と「実質GDP」を区別して見る必要があります。名目GDPは金額ベース、実質GDPは数量ベースです。日本の実質GDPは2019年とほぼ同じ水準で、6年間でほぼ0成長。一方、名目GDPはインフレによって急上昇しています。

つまり、「経済全体の数字」は膨らんでも、実際に生産されたモノやサービスの量は増えていないのです。これが株高不況の正体のひとつです。

豆知識: 「GDPデフレーター」とは、物価変動を調整して実質GDPを算出するための指数。これが上昇している=物価が上がっている、という意味です。

なぜインフレが「企業の追い風」になるのか

2022年のロシア・ウクライナ侵攻を契機に、原油や小麦などの価格が急上昇しました。企業はこれまで値上げを我慢してきましたが、原材料の高騰に耐えきれず、一斉に価格転嫁を始めます。「値上げしても売れる」ことを経験した企業は、さらに価格を引き上げ、インフレが加速しました。

加えて、23年度以降は賃上げも進み、企業コストが上昇。しかし、そのコストも価格に転嫁され、結果として企業利益は増加。つまり、インフレは企業業績にプラスに働いているのです。

株価が上がるのは合理的?

日経平均株価やTOPIXの上昇は、単なるバブルではなく、企業収益の改善に裏打ちされた部分もあります。藤代氏の分析では、企業の利益成長率はアメリカとほぼ同等。つまり、株価の上昇には一定の「実体」があると言えます。

家計に広がる二極化「知っている人」だけが得をする時代

株価の上昇を享受しているのは、インフレに強い資産を持つ層です。株式や投資信託を保有する人にとっては、物価上昇は資産拡大の追い風になります。

一方で、現金を主に持つ層は大きな打撃を受けています。普通預金の金利は税引後0.16%前後。インフレ率が3〜4%であれば、実質的に毎年2〜3%ずつ「お金の価値が減っている」計算になります。

ポイント: デフレ期には「現金=安全資産」でしたが、インフレ期には「現金=減価資産」となります。

企業は儲かっても労働者は報われない?

賃上げは進んでいるものの、実質賃金は依然マイナスです。その背景には「労働分配率の低下」があります。企業が稼いだ利益のうち、どれだけを従業員に分配するかを示すこの指標が、大企業を中心に下がっているのです。

つまり、利益は上がっても、それが労働者に回っていない。代わりに株主還元(配当や自社株買い)が増えており、「株を持つ人だけが豊かになる」構造が進んでいます。

インフレ格差を乗り越えるには?

個人としての対策

  • 預金を分散し、一部をインフレ耐性のある資産(株式・不動産)へ。
  • 家計簿を見直し、固定費削減と投資のバランスを取る。
  • 「お金の勉強」を通じて、物価上昇と資産運用の関係を理解する。

企業・政府としての課題

企業は利益の再配分を見直し、労働者への賃上げをより積極的に行うことが求められます。また政府には、金融教育の普及や、税制面での中立性確保など、構造的な格差是正策が必要です。

今後の展望、株高不況は終わるのか?

短期的には円安とインフレが続き、株価も高止まりする可能性があります。ただし、インフレが「悪い物価上昇」から「需要に支えられた良い物価上昇」に変われば、消費回復とともに真の経済成長につながるかもしれません。

藤代氏はこう指摘します。「株価は名目の世界。実質経済が苦しくても、インフレによって数字上は上がる。だからこそ、個人も名目の世界に足を踏み入れる必要がある」と。

株高不況:「数字は上向き、実感は冷え込み」という現象。現金だけでなく、株式などのインフレに強い資産を持つことが、新時代の防衛策になるのです。

あなたの資産は、物価の波に飲まれていませんか? 今こそ、株高不況をただのニュースではなく、自分ごととして捉える時です。

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