クロッサムモリタは「普通の高級焼肉」や「ちょっと良いステーキハウス」とはまったく別次元の体験型レストランです。牧場から屠殺、熟成、調理、演出、ペアリングまでを一気通貫で設計し、「牛の一生」と「食べ手の体験」を1本のストーリーとして組み立てています。
- 自社牧場の牛を使い、内臓からローストビーフ、レバー、ランプ、ハツ、ハラミ、シャトーブリアンまで「全身をコースで体験させる構成」が極めて一貫していること。
- 蜂蜜、麹、発酵、スパイス、日本酒ペアリング、香り演出まで「科学と感性」が両方使われていること。
- シェフが「おいしさ」だけでなく「驚き」「余韻」「構成」を明確に意図して設計していることが、トークからもはっきり読み取れること。
見どころ評価
- 体験設計と演出力:★★★★★(入店からコース終盤まで、一貫した物語性とサプライズが続く構成になっているため。)
- 肉の扱いと調理技術:★★★★★(1分で仕上げる心臓の料理や、余熱だけで仕上げる卵ソースなど、調理プロセスが高度かつ理詰め。)
- 日本酒・ドリンクとのペアリング:★★★★☆(全体としてレベルは非常に高く、特にウナギ×赤身×日本酒などは強く語られている一方、好みが分かれそうな組み立ても含まれているため。)
クロッサムモリタとは何か
スマホ没収・カメラNGの「秘密主義レストラン」
動画では、クロッサムモリタは「日本一予約が取れない」と噂され、通常はスマートフォンの使用も禁止されていると説明されています。入店時にスマホをしまうよう案内されることや、テレビ取材も基本的に断っていることから、「情報を出して集客する店」ではなく「来た人だけが体験できる場」として設計されていることがわかります。
今回の撮影も、シェフ森田さんと出演者の友人関係があって「今後一切撮らない代わりに今回だけ」という条件で実現した特例です。これは、店側が意図的にレアリティを維持しつつ、常連との信頼関係を何より重視している証拠と言えます。
豆知識: 完全撮影NGの店は、ミシュラン星付きの高級店よりもさらに情報が少ないケースがあります。口コミが頼りになる一方で、「期待値コントロール」も難しくなりやすいという特徴があります。
自社牧場とチャンピオン牛という前提
クロッサムモリタのベースにあるのが、自社牧場で育てた牛と、コンテストでチャンピオンを取った牛です。動画内では「2頭から始めた自分の牧場が、今では500頭を超えた」「この上半期日本で1番になった牛のトロフィー」という説明があり、単なる仕入れではなく、生産から関わっていることが強調されています。
また、「ブランド名ではなく、どんな環境で、何を食べて、どれくらいの期間育てたかが重要」とはっきり語られており、いわゆるラベルよりも実体の飼育過程を重視する哲学が見て取れます。
驚きの連続:コース序盤の演出と内臓料理
心臓をまるごと見せるところから始まる
コース序盤の最大のインパクトは、牛の心臓そのものをカウンターに出し、膜や脂の構造から説明していくパートです。心膜という2層の膜が雑菌と酸素から守っているため、内部は酸化せず血も出ない、という「肉の科学」を実物を見せながら解説しています。
さらに、最もおいしい中心部だけを取り出し、「血が一滴も出ない状態」を確認しながら、そこから1分で調理する心臓料理へとつなげていきます。この流れはエンタメでありつつ、肉の衛生と構造理解にもつながる内容です。
蜂蜜と水牛ミルクで仕上げる1分調理の心臓
心臓の料理では、店の屋上で飼育している蜂から採ったばかりの蜂蜜と、水牛の乳を使っています。わずか1分の加熱で仕上げることで、弾力とジューシーさを同時に維持しつつ、内臓特有のクセを抑えていることが、食べた側のリアクションからも伝わってきます。
出演者は「めちゃくちゃうまい」「ここでしか食べられない」と繰り返し語っており、内臓が苦手な人間にとっても衝撃的な体験になっているようです。
豆知識: 心臓やレバーなどの内臓は、表面の膜や血抜きの状態で味と臭みが大きく変わります。動画でも「一滴も血が出ないことが大切」と強調されており、ここを徹底している店は限られます。
科学としての料理:酵素・温度・香りのコントロール
酵素を使った膝肉の柔らかさとソースの温度設計
膝のような本来硬い部位には、プロテアーゼという酵素を含む野菜を使ってタンパク質を分解し、「科学としての料理」を実践しています。ソースと肉の温度は本来分けるべきだと説明し、日本の料理人がやりがちな「全部同じ温度で提供する」やり方をあえて避けています。
スポイトでソースを口に入れてから肉を噛むよう指示するなど、「どの順番で、どの温度帯で、どの香りを感じさせるか」を細かく設計している点が特徴的です。
余熱で仕上げる卵黄ソースと柚子の香り
柚子を食べさせた鶏の卵黄を、余熱のみでソースにし、柚子の香りを卵黄内部に閉じ込める工夫も紹介されています。卵の殻には約16000個の穴があり、香りが抜けてしまいやすい一方で、卵黄に取り込まれた香りは残りやすいという説明も添えられていました。
このソースを肉にディップして食べることで、「脂の甘み」「卵黄のコク」「柚子の爽やかさ」が重なり、出演者は一様に驚嘆しています。
豆知識: 余熱調理は、食材の中心温度を狙った温度まで上げるのに有効な手法で、火を止めた後の数分が最もコントロールしづらいゾーンです。動画でも「これ以上行くと肉がピークを超える」というギリギリのラインを狙っていると説明されています。
レバー・ハラミ・ランプ・シャトーブリアン:部位ごとの「物語」
レバーの「枕」サイズとシャトーブリアンレバー
動画中盤では、人が枕に使えるほど巨大なレバーが登場します。表面の膜が非常に滑らかで美しく、そこを丁寧に処理することで、中心部の一番厚い場所だけを「レバーのシャトーブリアン」として提供しています。
レバーが苦手だと公言する出演者が「ずっと食べていたい」とまで感想を言っている点から、火入れと下処理に相当な手間がかかっていることが推測ですが読み取れます。
ハラミとスパイス、そして「火山」演出
ハラミのパートでは、パイナップルやイチジク、カツオなどを使ったマリネと、燃える塊肉の「火山」演出が印象的です。1枚目はシンプルに焼きの旨味を楽しませ、2枚目に強烈なスパイスを効かせることで、同じ部位でも味の印象を大きく変えています。
この「同じ部位を2段階に分けて食べさせる」構成は、その後のコース全体にも通底しており、単に品数を増やすのではなく印象の強弱をつけるための設計だと考えられます。
ランプとウニ・ウナギ・海苔の多層構造
熟成に最も向く部位としてランプが紹介され、そこにウニ、ウナギ、そして海苔を組み合わせた一皿が登場します。噛むごとに味が変化していく体験が語られ、最後に海苔が全体をまとめる役割を果たす構成になっています。
ここでは、肉の鉄分と魚介の旨味、日本酒のペアリングが重なり、「回線料理のような味わいなのに、実はすべて牛由来の要素」というギャップが大きな驚きになっています。
ローストビーフとご飯もの、デザートまで続く「一貫した世界観」
牛脂で香りを戻すローストビーフ
ローストビーフは、一度焼いて油が抜けた表面に、丁寧に取った牛脂をかけて再度焼きつけることで、失われた脂の香りを再注入する手法が使われています。玉ねぎとマスタード、少量の塩というシンプルな薬味に、日本酒のペアリングを合わせることで、肉の旨味を前面に出す構成です。
米を米で炊く「戦国武将」の手法と卵・松茸
終盤のご飯ものでは、日本酒で炊いた米や、米を米で炊くという戦国武将由来の手法が紹介されます。ここに松茸や特別な卵を合わせ、卵のとろみと香りを米にまとわせることで、「品が良いのに味が深い」と出演者が評する一品になっています。
メロン・柑橘・和菓子「栗」のデザート構成
デザートは、メロンや柑橘、カクテルを合わせた爽やかな構成と、最後に提供される和菓子「栗」で締めくくられます。米を発酵させて泡立てた生地と栗餡を組み合わせ、「栗を食べると運気が上がる」という昔の言い伝えも添えられています。
豆知識: コース全体で合計18品が提供されたと説明されています。人間が一度の食事で鮮明に味の記憶を残せるのは7品程度とシェフ自身が語っており、その制約の中で「何を記憶させるか」を逆算して構成している点が特徴です。
シェフ森田氏の哲学:おいしさだけでなく「構成」も設計する
あえて「おいしさを捨てる」牡蠣風の料理
シェフは、自身のコースの中に「美味しさを少し捨てている料理」があると明かしています。それが、牛肉だけで作った牡蠣風の料理です。青い皿と香りの演出を重視し、旨味は約30%落ちると知りながらも、「次に出すタンをよりおいしく感じさせるため」に配置していると説明していました。
これは、単体の皿ではなく「コース全体での起伏」を最適化する発想であり、一般的なレストランの考え方とは一線を画しています。
限定制ゆえの難しさと、常連を飽きさせない工夫
クロッサムモリタは、席数も枠も限定されているため、「限定だから良く見える」という批判もあるとシェフは認識しています。その上で、「毎年1回ずつ15年通い続ける常連に、同じメニューを出さないこと」の方が難しいと語っています。
メニューが前日の夜中に決まることもあるなど、常に細かいアップデートを繰り返していることが動画からも読み取れます。
クロッサムモリタ体験をどう評価するか
ポジティブな評価の主なポイント
- 牛の部位ごとの構造・科学・香り・食感を、理屈と体験の両方で理解させてくれる「学びのあるレストラン」であること。
- 内臓が苦手な人でも「おいしい」と言ってしまうレベルの処理・火入れが徹底されていること。
- 日本酒・香り・照明・音・温度を組み合わせた総合演出により、「ただの食事」を超えた没入型体験になっていること。
反対意見・ネガティブに感じうる点
- 予約が極端に取りにくく、通常の消費者にとっては現実的にアクセスできない可能性が高いこと。
- 撮影NG・情報統制が強く、「口コミが熱狂的すぎて、冷静な比較がしにくい」と感じる人もいると考えられること。
- 内臓や血の説明、屠殺場への言及など、「牛の命と真正面から向き合うスタイル」が心理的にきつい人も確実に存在すること。
また、価格については動画内で具体的な数字が出ていないため、コストパフォーマンスを客観的に評価することはわかりません。ここは「わからない」と明示せざるを得ません。
この動画から読者が得られる学び
家庭料理にも応用できるポイント
クロッサムモリタのレベルを家庭で再現することは不可能ですが、考え方の一部は日常の料理にも応用できます。
- 肉とソースの温度を意識し、必ずしも同じ温度で出さない(熱い肉 × 常温ソースなど)。
- 余熱調理を活用し、火を止めた後の数分を「仕上げの時間」として意識する。
- コース仕立てでなくとも、「最初に軽い驚き」「中盤にピーク」「最後に余韻」を意識して献立を組む。
また、シェフが語るように「味の記憶は7品が限界」という前提を知っておくと、家庭でも「全部おいしい料理を並べる」のではなく、「どの1〜2品を強く記憶させたいか」を意識した献立作りができるようになります。
豆知識: 味覚の記憶は視覚や嗅覚と結びついており、色・香り・演出が強いほど残りやすいとされています。動画中の「暗闇で食べるのり巻き」や「火山のように燃えるハラミ」は、まさにその理屈を使った演出です。


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