ソフトバンクグループは、情報革命を牽引する企業として、常に時代の最先端を走り続けてきました。今回の株主総会では、孫正義社長が創業以来の変わらぬ思いと、これから10年を見据えた壮大なビジョンを語りました。特に、「ASI(人工超知能)の世界で、世界ナンバーワンのプラットフォーマーになる」という力強い宣言は、株主の皆様に大きな期待と興奮をもたらしたことでしょう。
- 5段階評価
- 孫正義、50年前の「衝撃」を語る
- ソフトバンクグループ、ASIプラットフォーマーへの道
- Q&Aセッションから見えたソフトバンクグループの戦略
- Q1:ソフトバンクグループが300年間成長し続けるための戦略や人材育成、継承について
- Q2:ASI・AGI実現のための技術的な課題について
- Q3:時価総額を上げるための方策について
- Q4:OpenAIとMicrosoftの関係性および今後の影響可能性について
- Q5:AI、ASIと人間の関わりについて(ASIは人間に指令を出す存在となり得るか、人間だけに委ねられるものは)
- Q6:孫正義の後継者について
- Q7:AIが進化する中で人間が果たす役割とは
- Q8:AI依存が高まる中でのリスクへの対応策について
- Q9:孫正義が投資を続ける理由について
- Q10:米国政府との関係について
- Q11:ASIで寿命が延びたとしたら、社長を続けるか、ASIに経営を託すか
- Q12:ASIのプラットフォーマーとして、どのように収益化するか
- Q13:日米でのAI分野への注目度の温度差について
- Q14:Stargateの資金調達方法と利益の出し方について
- Q15:暗号資産について
- Q16:生成AIにおける競争戦略について
- Q17:株式市場を牽引する企業になることへの期待
- Q18:AIなどにより株価を合理的に説明できるようになるか
- Q19:1,000兆円を手にしたら何をするか
- Q20:増配や株式分割に対する考え方について
- Q21:投資先とグループ企業とのシナジーについて
- Q22:クリスタル・インテリジェンスの進捗状況について
- 2025年6月のソフトバンク株主総会
5段階評価
- 情報革命への情熱: ★★★★★
- AI戦略の具体性: ★★★★☆
- 将来性への期待: ★★★★★
孫正義、50年前の「衝撃」を語る
1975年1月、当時17歳だった孫正義社長は、サンフランシスコで目にした一枚の写真に衝撃を受けました。それは、指先にちょこんと乗る小さなマイクロコンピューターのチップの写真でした。当時、コンピューターは巨大で高価なものであり、一般の人々には手の届かない存在。しかし、その小さなチップがやがて人間の脳を超える存在になることを直感したと語ります。
この時の「まるでトラウマのように」脳に刻み込まれた衝撃は、孫社長の人生を決定づけるものでした。彼はこの写真を毎日持ち歩き、コンピュータの勉強に没頭します。そして、この50年間、「いずれ人間の知能を超えるものが現れ、そこに何らかの形で関わることができれば」という思いを抱き続けてきたのです。まさに、ソフトバンクグループの歴史は、この瞬間に始まったと言えるでしょう。
豆知識: 孫社長が見たのは、世界初のマイクロプロセッサとされるIntel 8080を搭載したコンピュータ「Altair 8800」の記事が掲載された雑誌「Popular Electronics」だと言われています。この小さなチップが、その後のパーソナルコンピュータ革命の幕開けを告げるものでした。
ソフトバンクグループ、ASIプラットフォーマーへの道
これまでソフトバンクグループは、パソコンのソフトウェア流通から始まり、インターネット、モバイルと、時代の変化に合わせて事業領域を広げてきました。Yahoo!への投資、ボーダフォンジャパンの買収、そしてスプリントのT-モバイルとの合併など、常に「情報革命」を軸に大胆な経営判断を行ってきたのです。
そして今、孫社長が目指すのは、「AI超知能の世界で、世界ナンバーワンのプラットフォーマーになる」という明確な目標です。彼は、AIが人々の生活や社会を根底から変える「人類史上最大の影響を与える大事件」が今まさに起きていると強調します。まさに、このASIの時代こそが、50年来の夢を実現する時なのです。
「収穫逓増型」ビジネスへの集中
企業には、時間の経過と共に利益率が下がる「収穫逓減型」の事業と、ますます強くなり利益を独占する「収穫逓増型」の事業がある、と孫社長は指摘します。
GoogleやAmazon、Microsoftといったプラットフォーマーは後者に該当し、ソフトバンクグループもこの「超知能」の世界で「土管屋」として、産業の基盤を握る存在を目指すと言います。つまり、プラットフォームを構築することで、時間の経過と共に企業価値を高めていく戦略です。
「アーム」と「OpenAI」が牽引するAI戦略
ソフトバンクグループがASIの世界でトップを目指す上で、その中核となるのが「アーム」と「OpenAI」の2社です。
- アーム: 世界中のスマートフォンチップの約99%のシェアを握るアームは、その設計図と知的財産権(IP)を基盤に、PC、自動車、IoT、そしてクラウド向けチップへと事業領域を拡大しています。特に、クラウド用チップにおいては、買収時にはほぼ0%だったシェアが、現在では世界中の50%を超える規模にまで成長しました。さらに、最近ではチップの設計開発を加速させるため、英国のグラフコアと米国のアンペレコンピューティングを子会社化し、設計から製造までの一貫した技術を取り込み始めています。
- OpenAI: 生成AIの分野で圧倒的な世界シェアを持つOpenAIは、アクティブユーザーがすでに5億人を突破し、驚異的なスピードで成長しています。ソフトバンクグループは、OpenAIへの追加出資に合意し、その投資額は日本円にして4.8兆円にも上ります。これは未上場企業への投資としては歴史上最大規模であり、孫社長のOpenAIへの揺るぎない信念を示しています。OpenAIが提供するAIは、もはや「検索」のレベルではなく、「推論」や「行動」を伴う「AIエージェント」へと進化しており、あらゆる産業のあり方を変える可能性を秘めています。
豆知識: 「AIエージェント」とは、自律的に目標を達成するために行動するAIのこと。例えば、投資の目標をAIに伝えれば、AIが自ら銘柄を選び、取引を実行するといったことが将来的に可能になるかもしれません。これは、人間の仕事を大きく変える可能性を秘めていますね。
クリスタル・インテリジェンスとロボット
ソフトバンクグループは、OpenAIとのジョイントベンチャーで「クリスタル・インテリジェンス」というスーパーインテリジェンスの構築を進めています。
これは、グループ内に存在する2500もの異なるシステムを統合し、AIエージェントとして社員一人当たり100本ものAIエージェントを作成する計画です。まずは社内業務での活用から始め、将来的にはあらゆる産業に展開していくことを目指します。
さらに、AIが物理的な姿形を持ったロボットに搭載されることで、ホワイトカラーの仕事だけでなく、ブルーカラーの仕事も大きく変革すると孫社長は語ります。物流、医療、製造業、自動運転など、あらゆる分野でAI搭載型ロボットが活躍する未来が、すぐそこまで来ているのです。
Q&Aセッションから見えたソフトバンクグループの戦略
株主からの質疑応答では、ソフトバンクグループの長期的なビジョンと、その実現に向けた具体的な戦略がより明確になりました。
Q1:ソフトバンクグループが300年間成長し続けるための戦略や人材育成、継承について
孫社長は、300年成長し続けるためには、「テーマ選びが大事」であり、情報革命、特にAIの分野は今後も成長し続ける産業だと強調します。人材育成については、世界中から優れた人材を集め、最先端のプロジェクトに挑戦できる機会を与えることが重要だと述べました。後継者については、グループ内の数百社の中から、競争の中で勝ち上がってきた経営陣の中から選ばれるべきだと考えているようです。
Q2:ASI・AGI実現のための技術的な課題について
OpenAIにも優秀な研究者が多数いること、そして世界中の研究者が日々努力していることから、技術的な課題は時間の問題で解決されていくと松尾教授は言及しました。マクロな視点で見れば、大きな技術的課題は見当たらない、という前向きな見解でした。
Q3:時価総額を上げるための方策について
ソフトバンクグループの時価総額が、保有する上場株式の時価総額よりも低い「ディスカウント」状態にあることについて、孫社長は株主にとっては「チャンス」と捉えていると述べました。今後も、手元資金のバランスを見ながら自社株買いを行う可能性を示唆しました。しかし、最も大切なのは、会社そのものを5倍、10倍、20倍と成長させることだと強調しました。
Q4:OpenAIとMicrosoftの関係性および今後の影響可能性について
孫社長は、OpenAIとMicrosoftの関係は当事者同士の交渉事であり、コメントを避けるべきだと前置きしつつも、MicrosoftがOpenAIに投資する以前に、自身もOpenAIへの投資を申し出ていたことを明かしました。OpenAIがMicrosoftを選んだのは、販売網や技術、ブランド力においてMicrosoftが優れていたためだと分析。しかし、自身のOpenAIへの情熱は変わらず、今後も増資や業務提携を深めていきたいと語りました。
Q5:AI、ASIと人間の関わりについて(ASIは人間に指令を出す存在となり得るか、人間だけに委ねられるものは)
AIが人間に命令を出すのではなく、提案を行い、人間がそれを受け入れるか拒絶するかを選択すると孫社長は述べました。ただし、AIが常に人間よりも優れた提案をしてくれるならば、だんだんとAIの言うことを聞く割合が増えるだろうと予想。同時に、「超知能」だけでなく「超知性」を持つAIの重要性を強調しました。「知性」とは、知的な能力に加えて「慈愛」「優しさ」「愛情」といった人間性を含むものであり、人類の幸せを共に願うAIの存在を期待しています。人間同士の心の触れ合いや感動を分かち合うことの重要性も語りました。
Q6:孫正義の後継者について
孫社長は、自身の頭の中にはすでに数人の後継者候補がおり、彼らはグループ内の社員であると明かしました。
彼らが実務を通して成長していることを強調し、自身もいつ何があっても任せられるよう準備していると述べました。同時に、自身の情熱もまだ残っており、しばらくは自身も頑張っていきたいという意欲を見せました。
Q7:AIが進化する中で人間が果たす役割とは
人間が果たす役割として、人と人との心の触れ合い、共に楽しみ、夢を見て、スポーツをし、食事をすることの楽しさを挙げました。AIは人々の生活を助け、病気を治し、労働を楽にし、学びを増やす存在として期待しつつも、人間同士の笑いや感動を共有することの大切さを強調しました。
Q8:AI依存が高まる中でのリスクへの対応策について
AIが社会基盤となる中で、システム障害のリスクに対しては「リダンダンシー(冗長性)」設計がますます重要になると述べました。複数のシステムが常時動き続ける設計を心がけていることを説明し、サイバーアタックなどの脅威に対しても、AI自体が圧倒的な強さを持つことで防御できるようになると信じていると語りました。
Q9:孫正義が投資を続ける理由について
孫社長は、事業と投資の境目はないと考えていると述べました。会社が大きくなるにつれて、様々なグループ会社や事業部門が増え、それらを投資家的な目で見るべきだと主張します。AIの群戦略において、投資も事業も全ては「AIのプラットフォーマーナンバーワンになる」という一つの目標のために行われていると明確にしました。
Q10:米国政府との関係について
金銭的な寄付や関与は一切ないとしつつも、AIの中心地であるアメリカで大規模な社会インフラを構築するためには、米国政府との交渉が不可欠だと述べました。
ホワイトハウスを頻繁に訪問し、大臣クラスの要人と会談していることを明かし、政府の支援を得る重要性を強調しました。
Q11:ASIで寿命が延びたとしたら、社長を続けるか、ASIに経営を託すか
もし自身がリーダーとして残った方が良いと判断し、情熱と健康が続く限りは頑張りたいと述べました。
しかし、会社の成長を妨げると感じれば、次のリーダーに譲るべきだという考えを示しました。同時に、AIを最大限に活用する企業集団でありたいという意欲も語りました。
Q12:ASIのプラットフォーマーとして、どのように収益化するか
孫社長は、10年後には世界のGDPの少なくとも5%はASI企業が提供し、その果実を少数の企業が分け合うと予測しました。
売上高1300兆円規模の市場で、収穫逓増型ビジネスとして50%程度の利益率を出すことが可能だと見込んでいます。この規模であれば、十分に利益が得られると自信を見せました。
Q13:日米でのAI分野への注目度の温度差について
孫社長は、AIの活用度や技術の進歩において、アメリカがトップであり、次いで中国が高いレベルにある一方、日本は残念ながら遅れていると指摘しました。日本のメディアや有識者に対し、もっとAIの重要性を啓蒙し、日本のAI分野を盛り上げるべきだと強く訴えました。
Q14:Stargateの資金調達方法と利益の出し方について
Stargateの資金調達は、一度に巨額の投資を行うのではなく、フェーズごとに分けて段階的に進めると説明しました。個々のデータセンターごとにプロジェクトファイナンスを活用し、銀行や機関投資家からの借入れも活用する計画です。
OpenAIの売上は現在、半年ごとに倍増するペースで伸びており、数年後には黒字化し、その少し手前には株式上場も実現するだろうとの見通しを語りました。
Q15:暗号資産について
暗号資産はすでに十分な市民権を得ていると考えていると述べました。個人的には短期で売却したが、それは経営に集中するためであり、暗号資産そのものを否定するものではないと強調しました。今後も広がっていくと見ています。
Q16:生成AIにおける競争戦略について
DeepSeekなどの企業は優れた技術を持つが、OpenAIやGoogleなどが最先端のAIを開発し、それを圧縮して提供する形が一般的であると説明しました。最先端のAIは常に膨大な計算能力を必要とするが、コストダウンされたモデルも普及していくと予測。しかし、競争に勝ち抜くためには、常に最先端のAIを活用することが重要だと述べました。
Q17:株式市場を牽引する企業になることへの期待
ASIのナンバーワンプラットフォーマーを目指すという宣言をした以上、当然ながら日本でも市場を牽引する存在になるという強い決意を示しました。
Q18:AIなどにより株価を合理的に説明できるようになるか
孫社長は、将来のフリーキャッシュフローを現在価値に割引いたものが企業価値であるという独自のシンプルな計算式を持っていると明かしました。
AIの進化により、この計算がより精密に行えるようになれば、投資家が株式投資を行う上での参考になると予測しました。本質的に、企業の経営者が中長期を見据えて成長し続ける姿勢が重要であると述べました。
Q19:1,000兆円を手にしたら何をするか
「ASIのための基盤作りの投資に一本賭けする」と即答しました。その一言に、彼のAI革命への揺るぎない情熱と決意が凝縮されていました。
Q20:増配や株式分割に対する考え方について
必要な時にはいつでもやる構えはあるが、将来のことはコメントを避けるべきだという一般的な回答に留めました。
Q21:投資先とグループ企業とのシナジーについて
OpenAIとの協業や合弁会社設立により、国内のソフトバンク株式会社だけでなく、Yahoo!やLINE、PayPayなど、グループ内の様々な企業でAIエージェントを活用した機能開発が進められていることを説明しました。ビジョンファンドが投資するAIロボット企業群との連携も深まり、相乗効果が生まれることに期待を寄せました。
Q22:クリスタル・インテリジェンスの進捗状況について
ソフトバンク株式会社で4月1日に準備室が発足し、社員一人当たり100本のAIエージェントを作成する計画が進行中であることを明かしました。すでに1日に何万本ものAIエージェントが作成され始めており、社内業務におけるAIエージェントの活用は世界で圧倒的に最大規模になるだろうと自信を見せました。今年12月までにこれを実現することを目指しています。
2025年6月のソフトバンク株主総会
今回の株主総会は、孫正義社長の「超知能」という壮大なビジョンと、それを実現するための具体的な戦略、そして熱い情熱が伝わる内容でした。
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