秒速5センチメートルのファンなら誰もが一度は考えたことでしょう。
なぜ、遠野貴樹と篠原明里の文通は突然途絶えてしまったのか? 映画ではその明確な理由は語られず、多くの人がモヤモヤした気持ちを抱えたままだったはずです。しかし、この最大の謎を解き明かす鍵は、意外にも明里の両親の視点にありました。
この作品を、明里の両親の視点から紐解いていくと、驚くべき真実が見えてきます。そして、なぜ二人の距離が決定的に離れてしまったのか、その衝撃的な理由を考察していきます。まだ作品をご覧になっていない方は、必ず見てから読み進めてくださいね。
作品の見どころ
- 親から見た貴樹の印象の変化:★★★★★
- 手紙が届かなかった衝撃の理由:★★★★☆
- 普遍的な親心というテーマ:★★★★★
親から見た『桜花抄』:貴樹の印象はこう変わった
まず、物語を明里の両親の視点で追ってみましょう。明里はもともと病気がちで、図書室にいることの多い女の子でした。そんな娘に友達ができたことは、親として喜ばしいことです。貴樹と明里は転校生という同じ境遇で、仲睦まじく、からかわれた時には貴樹が明里を守ってくれたと聞けば、両親はさぞ安心したことでしょう。この頃の貴樹は、明里の両親にとって「頼れる男」だったはずです。
しかし、話はここから変わります。明里の転校が決まり、彼女は「親戚の家から通いたい」と両親に言います。小学生がそんなことを言い出すなんて、両親は「貴樹くんのこと、好きすぎないか?」と不信感を抱いたことでしょう。
そして、運命の3月4日。雪の降る夜、貴樹が明里に会いに来る日です。電車は雪で大幅に遅延し、貴樹が駅に到着したのは夜の11時16分。明里は両親に「絶対に家に帰るから」と手紙を残して家を出ていました。この時、両親はどれほどの不安と怒りを感じたことでしょうか。まだ中学1年生の娘が、真夜中の雪の中で、男の子と過ごしているのです。しかも、翌朝になって帰宅したとなれば、その不安は頂点に達したはずです。
たしかに、おにぎりやタコさんウインナーを焼く明里の姿はとてもけなげです。しかし、親の視点で見ればどうでしょう。「あんなに良い子に育てたのに、貴樹という男のせいで朝帰りするなんて…」と考えたとしてもおかしくありません。この一夜の出来事で、明里の両親が持つ貴樹への信頼は、まさに地の底に落ちたと考えるのが自然ではないでしょうか。
親にとって、「頼れる男」から「娘を朝帰りさせる男」へと、貴樹の印象は一気に最悪なものになったのです。
豆知識:新海誠監督が執筆した小説版によると、明里は家を出る際、両親に誰に会うかを言いませんでしたが、「両親は分かっていたと思う」と語っています。また、貴樹は明里とキスをした後、彼女を守れるような強い人間になりたいと決意します。この日の出来事が、貴樹のその後の人生に大きな影響を与えていくことがわかります。
最大の謎:なぜ文通は終わったのか?
いよいよ、この動画の最大の謎に迫ります。なぜ貴樹と明里の文通は終わってしまったのか?
映画のクライマックスシーンをよく見ると、二人とも郵便受けを見ては、何も入っていないことにがっかりしている様子が描かれています。このことから、少なくとも二人の意思で文通を終わらせたわけではないことがわかります。
では、何が原因だったのでしょうか?
- 郵便事故説:2004年の普通郵便の付着率は、総取引数230億通に対し、わずか0.015%です。郵便局のミスで手紙が届かなかったと考えるには、あまりにも確率が低すぎます。
- 第三者の意思による説:そうなると、残る可能性は一つ。誰かの意思によって手紙が届かなかった、ということです。
そう、ここまで読んでくれた皆さんなら、もうお分かりですね。明里のご両親が、二人の文通を断ち切ったと考えるのが最も自然な結論です。具体的な状況は以下のようなものが考えられます。
- 何かのきっかけで貴樹への手紙を預かった明里の両親が、わざと出さずに捨ててしまった。
- 貴樹から届いた手紙を、明里に渡さずに捨ててしまった。
中学1年生の娘を朝まで連れ回した貴樹という「悪魔」から、可愛い娘を守りたいという親心。この普遍的な愛が、結果として二人の文通を途絶えさせてしまったのではないでしょうか。
もちろん、本当に連絡を取りたければ、方法はいくらでもあったはずです。しかし、この文通の途絶が、二人の関係に決定的な亀裂を生んだことは間違いありません。
今回の考察はあくまで一つの視点ですが、これを踏まえて改めて作品を観てみると、また違った感動が生まれるかもしれませんね。
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