58歳・「白爵」さんのバイト探し奮闘記――片メガネと髭と古民家と、父の言葉が背中を押すまで。

58歳・「白爵」さんのバイト探し奮闘記――片メガネと髭と古民家と、父の言葉が背中を押すまで。 インタビュー

年齢や肩書に縛られず、自分の足で現実を選び直す物語です。片メガネとフォーマルな装い、そして長年の「白爵」スタイルを一度脱ぎ捨て、採用の条件に合わせて髭まで剃る。美学と生活の間で揺れながらも、最終的に「働く」という実利に振り切る決断が描かれています。読後、肩の力がすっと抜けるはずです。

見どころ

  • 見どころ1:片メガネ×面接の破壊力――非常識は本当に非常識か?:★★★★★
  • 見どころ2:古民家リノベの現実――資材高、職人不足、見積超過の三重苦:★★★★☆
  • 見どころ3:85歳の父の金言――「出会いに目を開けて、謙虚に強所していく」:★★★★☆

3年前に出会った「白爵」という生き方

初対面から片メガネにフォーマルという強いビジュアル。通称の「白爵」は、単なるニックネームではなく、生き方そのものに通じる記号でした。

生活は意外にも等身大で、現在の住まいは知人から無償で借りている家。収入は、過去に売却した家の資金で購入した複数の物件の家賃収入が中心で、いわゆる働かないでも暮らせる理想形に見えます。しかし物語はここから「働く理由」を獲得していきます。

第1章:58歳の就活。人手不足の時代に年齢は壁か、追い風か

1-1 面接は驚くほど早い。「年齢不問」は本当だったのか

配送・ドライバー系の求人に電話すると、即日で面接が決まります。担当者は「年齢は関係ない」と明言。人手不足が常態化した今、58歳という年齢が大きな障壁にならない現実が立ち上がります。

週3日程度からの勤務も検討可能で、就業条件の柔軟性も確認できました。

1-2 とはいえ、仕事の「中身」は簡単ではない

体験前に提示された車両は4tロング。幅も長さもある大型車で、人通りの多い時間帯を走るリスクを正直に恐れ、辞退を選択します。

さらに別案件では「1,000人分の給食を降ろす」など、体力要件が現実味を帯びます。普通免許で重労働を回避しつつ、運転中心の職を探す。この組合せは意外に少なく、条件の目利きが求められることがわかります。

第2章:古民家400坪の夢。ロマンとキャッシュフローのシーソー

2-1 一目惚れで買った、築250年・約400坪の「場」

舞台は奈良の無人駅近く。広大な敷地を活かして、朗読会や文化イベント、ギャラリーとして使える、そんな「場づくり」の夢に胸が高鳴ります。

カルチャー講師や歌会主催など、白爵さんの文芸的キャリアとも親和性は高い。理想と実務が一致しているように見えました。

2-2 現実の壁:資材高騰・職人不足・工期遅延

しかし、いざ着手すると資材は高く、そもそも手に入らず、職人は多忙で揃わない。

見積りは膨らみ、ついには1,000万円超の請求が現実化します。友人の手助けがあっても、スケールの大きさは誤魔化せません。ロマンで始めた計画は、次第にキャッシュアウトの圧に晒され、「働く理由」へと変換されていきます。

豆知識(古民家の落とし穴):古民家改修は、表面的な補修だけで済まないケースが多いです。解体して初めて見える構造劣化や配管・配線の全面更新、耐震補強まで視野に入ると、初期想定の1.5〜3倍の支出に跳ねることも珍しくありません。理想の用途を明確化し、優先順位をつけて分割実装するのが現実解です。

第3章:美学と就労。「髭を剃る」のは譲歩か、戦略か

3-1 採用条件:トレードマークの髭を剃ってほしい

採用側から提示された条件は、長年の象徴だった髭の剃毛。アイデンティティの一部を一時的に手放すことに抵抗はある。

しかし白爵さんは「仕事なら仕方ない」と受け入れます。片メガネを外し、ピアスも外して臨む初勤務。社長や先輩の反応は好意的で、礼儀正しさはアルコールチェッカーへの一礼にまで表れます。細部への姿勢は、現場で確かに評価されるのです。

3-2 面接の逆転現象:どちらが採用側かわからない空気

面接では、応募者であるはずの白爵さんが場の主導権を握りかける一幕も。会話の構成力、人と場への配慮、雑談のさじ加減。これらは配送業でも確実に生きる「対人スキル」です。採用側も「賢い方だからいけるのでは」と手応えを感じ、体験入社へ進みます。

第4章:「父の言葉」という資産

4-1 85歳、7カ国語の元ビジネスマンが語る核心

白爵さんが相談した父は、長年の商社勤めで世界を駆け回ってきた人物。評価は明快です。「人前できっちりまとめて話せる才能は100人に1人」「出会いに目を開けて、謙虚に強所していくのが一番」。

スキルを過大評価せず、しかし確かな強みとして見つめ直す。経験に基づく実務的な助言が、白爵さんの背中を押します。

4-2 老いのリアル:物忘れと日常の綻び

父は85歳。鍵を探す通話の一幕には、老いのリアルが滲みます。

白爵さんがバイト探しを始めた理由の一つは、父の介護を見据えた家計設計です。施設入所を急がず、馴染んだ家で暮らしを続けられる環境を整える。そのための現金収入の確保。働くことは、単なる生活費の問題を超えて、家族の尊厳に関わる意思決定でした。

第5章:仕事の選び方「できる・やりたい・求められる」の三点測量

5-1 条件の言語化で、ミスマッチを最小化する

  • 運転はできるが、4tロングや人混み時間帯は避けたい。
  • 積み降ろしの重量物対応は難しい。
  • 対人コミュニケーションは得意で、配達先との短い対話には強みがある。

この3条件を先に明文化してから応募すれば、辞退や再調整は減らせます。求人票の「歓迎」「柔軟対応」などの言葉は幅が広いので、体験入社前に具体的にすり合わせるのが実務的です。

5-2 「強みの換骨奪胎」文芸の力を現場に移植する

白爵さんの強みは、言葉の構成力と場の空気を読む力です。配送でも現場の導線設計、受け渡しの段取り、顧客との短時間コミュニケーションに活きます。加えて、古民家プロジェクトのファンコミュニティ化やイベント連動のロジ業務など、二つの文脈を接続する働き方も選択肢になります。

仕事と夢を分断せず、ゆるく結ぶ発想がキャッシュフローとモチベーションの両立に効きます。

第6章:古民家と就労のダブル戦略――「当座の現金」と「場づくりの未来」

7-1 フェーズ分割:今は現金、次に部分開業、その先に本開業

  • 短期:週2〜3で現金収入を作る(安全・軽作業・短時間移動が鍵)。
  • 中期:古民家の一部を先行オープン(防犯・雨漏り・電気・トイレ優先)。
  • 長期:朗読会や歌会、ギャラリーを循環させる会員制の「小さな経済圏」を構築。

「全部完成してから始める」をやめ、最小可用の状態から回す。文芸コミュニティは関係資本で回るため、集う理由と習慣が先に必要です。まず集まれる安全な部屋、それだけで十分な時期があります。

第7章:キャラクターを捨てず、衣装だけ着替える

白爵さんは、髭を剃り、ピアスを外しても、礼儀とユーモアと語りの芯は変えませんでした。キャラクターを捨てず、衣装だけを状況に合わせて着替える。これは就労と創作、家族のケアを併走させる大人の戦術です。

採用側が最後に求めたのは「仕事を円滑にするための最低限のルール遵守」であり、白爵さんはそこに柔軟に応じました。この因果はシンプルで再現可能です。

58歳の就活に必要なのは、若さではなく編集力でした

物語が示したのは、「自分の人生を編集し直す力」です。強みを場に合わせて切り出し、弱みは条件設計で回避する。

家族の現実と夢の場所づくり、その両方を支えるために、働く形を編み直す。白爵さんの選択は、美学を捨てたのではなく、順番を変えたのです。まず暮らしを立て、そこから表現を続ける。だからこの物語は、誰にでも起こり得る実用のエールになっています。

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