
連結で売上・各段階利益が過去最高、親会社所有者帰属利益が前年同期比約+270.7%といった強い数字に裏づけられた説明が中心でした。
見どころ(各5段階)
- 銀行・証券の連携モデル(スイープ口座/ハイパー預金):★★★★★
- オープンアライアンス戦略(SMBC・NTT・KDDI):★★★★☆
- デジタル資産とトークン化戦略の収益化ロードマップ:★★★★☆
まず数字と全体像を押さえる
- 連結ベース:売上・各利益が過去最高。親会社所有者帰属利益+270.7%と説明。
- ROE:22.5%と高水準(日本の金融機関では稀な20%超)。
- 顧客基盤:国内外合計7,836万、目標は1億(海外約3,000万)。
- 通期見通しの特殊要因:SBIネット銀行関連会社売却益約1,416億、生命保険子会社取得関連で約300億見込みと説明(時点では当局認可待ち)。
- セグメント概況:銀行・証券・保険いずれも伸長。暗号資産は不正流出計上25億等の逆風も売上は+8.9%。
出典の明示: 本記事は提示されたトランスクリプト(経営者説明会と思しき逐語録)に基づいて構成しています。具体的数値は同トランスクリプトの発言に準拠します。
セグメント別:何が利益のエンジンか
銀行事業:金利と営業資産の拡大が牽引
- 営業資産残高:約16.1兆円。総預金残高も約16.3兆円へ。
- 口座数:9月末で400万超。
- 増益要因:住宅ローンや与信の伸長、有価証券売却益など。上期で税前+56%という強いトーン。
- 戦略示唆:日本は「金利正常化」方向、米国は利下げ方向というマクロ前提で、銀行ウエイトを意図的に高めたと説明。
証券事業:ゼロ手数料でも拡大、SMBC連携が効く
- 口座数:1,475万2,000口座(CAGR13.3%)と大規模。
- 個人売買代金シェア:現物含め57.9%、信用は60.98%と説明。
- 特殊要因:不正アクセス等で50億の支払い保証金、金融商品責任準備金30億を特損計上。
- 構造:ゼロ手数料化を前提に、銀行・保険・運用との回遊でLTVを稼ぐ「多面収益」。
保険・資産運用:規模の閾値を超えて損益が安定化
- 保険:契約積み上がりとともに収益逓増のフェーズに入ったとの見解。CAGR15.6%(16年3月→25年9月)と説明。
- 運用:中間期で14期連続増収・16期連続増益、7期連続増配。27年度に運用資産20兆円目標。
用語メモ: ROEは当期純利益/自己資本。CAGRは年平均成長率で「(期末/期首)1/n-1」。証券ゼロ手数料でも黒字化可能なのは、信用・貸株・為替・投信販売・投資銀行・運用連携などの「面」で稼ぐ構造が前提です。
アライアンス戦略:顧客獲得を加速する結節点
SMBC×「オリーブ」:量と質の両取り
- 仲介口座数:156万6,000(22年3月→25年9月で+123.6%)。
- カード積立:設定口座数CAGR13.3%、設定額1,648億円。
- 新会社:オリーブコンサルティング設立で富裕層アドバイザリーを強化。
NTT・KDDI:金融外の技術・流通資産を金融に接続
- リアルタイム連携:銀行・証券の即時連携、金利優遇、ポイント連動等を展開。
- ION/光電融合:低遅延・低消費電力の次世代通信技術をPTS・トークン市場に適用する構想を明言。
- 目的:「金融スーパーアプリ/総合プラットフォーム」構築(SBIネオ金融プラットフォーム)。
豆知識: スイープ口座は、証券と銀行の間で余剰資金を自動振替する仕組みです。顧客は資金効率と金利メリット(例:普通預金の2倍・0.42%と説明)を享受できます。
デジタル資産:トークン化の実装計画と収益化ルート
事業の現状と打ち手
- 利用者・残高:国内暗号資産事業の預かり残高は8,800億円規模、顧客数は約180万人に接近。
- 逆風対応:SBIクリプトの不正流出で25億を計上、管理刷新を示唆。
- 商品化:25年8月までにSBI証券で暗号資産CFD開始方針、銀行で預金トークン・ステーブルコイン検討、運用で暗号資産ETF/組合型ファンドを構想(制度整備待ち)。
- 提携軸:リップル(XRP/ステーブル)、サークル(USDC/“ARC”基盤)、B2C2(マーケットメイク)など。
トークンエコノミーへの視界
- 主張:「10年以内に全アセットがトークン化」という長期ビジョン。
- 流通基盤:大阪デジタルエクスチェンジ(ODX)を活用し、不動産STからリアルワールドアセット(RWA)まで商品群を多様化。
- 規制論点:ETF解禁、レバ規制、課税(分離課税化)等を政策提言として明言。
関連情報: 近年のRWAトークン化は、私募不動産・社債・ファンド持分などで先行事例が増加。収益は「発行(アレンジ)」「保管・信託」「売買マージン」「二次流通(マーケットメイク)」の複合で立ちます。
海外事業:3割目標に向けたM&Aとバンキング投資
- 現状:海外売上比率は通期で17%→直近上期12.5%に低下(国内の伸長が相対的に大きいため)。
- 方針:銀行中心にデジタルバンクへ戦略投資、機が熟せば買収で一体化。株式交換(Stock for Stock)も活用へ。
- 例示:韓国貯蓄銀行(延滞率を大幅改善)、ベトナムFPT証券・DPバンク、NZ/豪のノンバンクなど。
豆知識: 海外比率の引き上げは「分母が膨らむ国内」の成功ほど難しくなります。対策は①買収による一括取り込み、②現地提携の多層化、③商品横展開(銀行→証券→運用)の並走です。
ネオメディア&地方創生:若年層獲得をKPI化
- 施策:音楽フェス「ミュージックサーカス」や「SBI前花火」などの大型イベント運営・投資、Web3メディア(コインポスト等)との連携、IP/タレントエージェンシー投資。
- 狙い:若年層の獲得→金融サービス導線(口座開設・投資・送金)へ接続するファネルを物理イベントで補強。
- 地方創生:地域メディア×地方銀行×イベントの三位一体で「人・モノ・金・情報」を循環させる構想。
システム・運用支援で地方銀の固定費を変動費化
- 成果例:福島銀行は一般事務業務を約5割削減、商品開発期間を約1/6に短縮(新コアバンキング導入効果の説明)。
- 資産運用の高度化:サステナブルファイナンス起案、協調融資、人材交流でオペ水平を底上げ。
関連情報: 地方銀行の課題は「規模の不経済(IT償却・人員)」。外部プラットフォーム化は、固定費→変動費への置換でROE改善の王道です。
何が「持続する強さ」か
SBI証券は、単一の当たり事業で稼ぐモデルではなく、銀行×証券×保険×運用×デジタル資産×地域/メディアを束ねる「多層の導線」です。
ゼロ手数料でも証券が伸びるのは、銀行や保険、運用商品、さらにはデジタル資産・ST流通へと顧客を循環させる設計があるからです。足元のROE22.5%という結果は評価に値しますが、投資家の関心は「この水準を平常ベースで維持・拡大できるか」に尽きます。
金利・規制・海外・内部統制の四隅を固めつつ、アライアンスとトークン化の実装速度をKPIで可視化できるかが、次の評価フェーズの分水嶺になります。



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