見どころ
- MIT発スタートアップCFSが核融合発電を「2030年代に商用化」と宣言
- 新型超伝導磁石REBCOにより、巨大施設不要の小型トカマクが実現へ
- Google・ビルゲイツ・米電力会社など超一流企業が次々と参戦
核融合とは何か?太陽の仕組みを地上に再現する挑戦
核融合とは、軽い原子同士を超高温で圧縮し、「融合」させることで莫大なエネルギーを得る方法です。これはまさに太陽が光と熱を生み出しているのと同じ原理です。従来の原子力発電は核分裂を利用しますが、核融合は異なります。
核融合の利点:燃料は海水中の水素同位体(重水素/トリチウム)。二酸化炭素ゼロ。核廃棄物ほぼゼロ。連鎖暴走の危険なし。
しかし条件は極めて過酷です。燃料となる水素を1億度以上に加熱してプラズマ状態にしなければ反応が起きません。そのプラズマを「トカマク」と呼ばれるドーナツ型の装置の中で磁場によって閉じ込めます。
ITERだけじゃない。時代は「民間核融合」に突入した
核融合といえば、長年はフランスで建設中の国際巨大プロジェクトITER(イーター)が象徴でした。しかしITERは建設費が膨張し、スケジュールは遅延し、今も稼働の見通しが見えません。
そんな中で登場したのが、米国マサチューセッツ工科大学(MIT)発のスタートアップCommonwealth Fusion Systems(CFS)です。わずか2018年創業の新興企業ですが、今や核融合開発の最有力候補に急浮上しています。
CFSが世界を驚かせた「SPARC」計画
CFSはアメリカ・マサチューセッツ州でSPARCと呼ばれる実証機を建設中です。これは世界で初めて「商用発電を視野に入れた核融合炉」と呼べるプロジェクトです。
SPARCの目標は明確です。
- 核融合反応で入れた電力より多くの電気を生み出す(ネット出力)
- 最初のプラズマ発生は2026年を予定
- 成功後、商用炉「ARC」を2030年代前半に稼働
この計画は従来の「50年後の夢」という核融合のイメージを一気に塗り替えました。
なぜCFSは巨大国家プロジェクトより先に進めるのか?
ポイントは新型超伝導磁石「REBCO(レアアース・バリウム・銅酸化物)」です。従来のトカマクは超巨大構造でしたが、REBCOにより小型・高磁場・低コストが実現しました。
従来の超伝導磁石:ニオブスズなど。巨大&高コスト。
REBCO磁石:高出力でも小型化でき、商業炉設計が可能に。
CFSは磁石を自社で設計製造し、ITERに頼らず「民間スピード」で一気に開発を進めています。
ARC:世界初の核融合発電所をアメリカで建設開始
CFSはSPARCの次に、バージニア州に世界初の商用核融合発電所「ARC」を建設します。出力は400MW(40万kW)。約15万世帯に電力を供給可能とされます。
さらに驚くべきは、その電力の半分(200MW)をGoogleが購入する契約をすでに結んでいるという点です。これは「核融合はSFではなく、すでにビジネスである」という事実を示しています。
主要パートナー:Google、ビル・ゲイツ、MIT、Dominion Energy(米最大級の電力会社)
SPARCを支える4つの重要施設
SPARC計画は単なる実験炉ではなく、商用機の前段階として設計されています。トカマク本体を中心に、4つの補助施設が連携して稼働します。
- Operations Building:炉の運転管理・プラズマの状態監視を行う中枢施設。
- RF Heating Building:プラズマを加熱する高周波エネルギー設備を収容。
- Power Building:超伝導磁石に電力を供給するための高出力電源を備える。
- Utility Building:炉の熱を取り出す熱交換システム、冷却や極低温(-240℃以下)の磁石保護装置を搭載。
面白ポイント:動画中では「トカマクでピザは焼けない」というジョークが登場。しかし100万度超のプラズマを発生させる装置なので、ピザどころか一瞬で蒸発します。
核融合の燃料はたった「100kg」
CFSが発表している試算では、出力400MWクラスの融合炉ARCで使用する燃料は年間わずか100kg程度です。これは化石燃料と比べて驚異的な効率です。
- 石炭火力:年間150万トンの石炭
- 天然ガス火力:年間3億立方メートル
- 核融合ARC:水素燃料100kg
人類がエネルギー資源の制約から解放される可能性がある、核融合が「夢のエネルギー」と言われる所以です。
最大の課題は「プラズマ制御」と「材料工学」
核融合が実現しない最大の理由は技術的なハードルです。特に重要なのは次の2点です。
- プラズマを安定させること:制御不能になると反応は止まり、炉が不安定になる。
- 炉の内壁を守る材料の開発:中性子を浴び続けると金属は破壊されるため、耐久素材が必須。
CFSはこれに対し、先端材料とモジュール構造設計により保守交換を前提とした設計戦略を採用しています。
競争は激化。最大のライバルは米Helionと中国
核融合は「人類総力戦」の様相を呈しています。CFSは有力候補ですが、競争は激化中です。
ライバル勢力
- Helion Energy(米国):Microsoftと電力契約を締結。2028年運転開始を宣言。
- General Fusion(カナダ):ジェフ・ベゾスが支援する衝撃波方式の核融合炉。
- 中国EASTプロジェクト:最長プラズマ維持に成功。「人工の太陽」と報道。
注目:中国は国家主導で核融合に巨額投資、融合×核分裂のハイブリッド炉構想も推進中。
核融合はAI時代の必須インフラになる
今、世界の電力需要は激増しています。とくにAIの普及により巨大データセンターの電力消費が増えています。
Googleが核融合電力の長期契約に踏み切った理由は、まさに電力確保が競争力になる時代が来ているからです。
核融合はもはやSFではない。動き始めた未来
CFSの登場により、核融合は「いつか実現する夢」から「2030年代の産業プロジェクト」へと変わりました。本動画が伝えていたメッセージは明確です。
- 核融合開発の主役は国家から民間へ移った。
- 突破口は「新素材×工学×企業戦略」の融合にある。
- 早ければ10年以内に世界のエネルギー地図が変わる。
核融合は人類最大の挑戦であり、次の1兆ドル産業の最有力候補である。
この分野は国家安全保障、資源戦略、AI時代の電力需要などあらゆる領域と関係しています。今後も最新情報を追う必要がある重要テーマです。



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